第34回:染色作家 仁平幸春さん
<仁平幸春 プロフィール>
1965年生まれ。都立工芸高校デザイン科卒業。小さな頃から好きだった料理の道へ進み、イタリアンレストランで働く中で「日本」を表現したいという思いが強くなり26歳で染色の世界へ。糸目友禅とロウケツ染のなどの繊細なものから大胆な染め分けまで作風は幅広く、素材を活かした想像力溢れるデザインがファンを集める。「柳染め課外授業」でお世話になっています
泉二:
今年も泰明小学校の柳染め授業ではお世話になりました。今年で20年目を迎える活動ですが、仁平さんには初期の頃から協力してもらっています。忙しい中、仲間として手伝ってくれてありがとうございます。仁平:
僕が参加させていただくようになって17年目になりました。染色家としてこのような地域貢献の活動に関わらせていただいて、うちのスタッフにもいい経験をさせていただいています。初めての草木染めに目をキラキラさせて、好奇心と元気いっぱいの子供たちと一緒に活動するのは楽しいですね。泉二:
20年前、私を育ててくれた銀座の街に何か恩返しができないかと始めた柳染めの活動が、根を張り枝を伸ばして、未来に種を蒔いてくれたらいいなと思っています。仁平:
20年前は、まだ店舗の場所はここではなかったですよね。泉二:
当時は柳通りに面した銀座一丁目にありました。春になると柳の新芽が朝日に照らされて、風に揺れてとてもきれいなんですよ。それが夏になると通行のじゃまになるからと剪定され処分されいくのがしのびなくて、何とか活かせないものかと。全国各地にその土地の自然から生まれた草木染めがあるように、銀座生まれの柳の命を布に宿したいと活動を始めたわけです。それが話題として広まって、銀座の泰明小学校からお話をいただき、草木の命から色をいただくという心の教えをぜひ子供達にも伝えてほしいと、最初は「地域理解教室」という形で始まりました。仁平:
それまで柳を染料に染めたことがなかったですし、色を出すのが難しい印象があって、最初は「え? 柳で染めるの? どうしよう! 」と思いました(笑)泉二:
難しいからこそ、ぜひ仁平さんにと依頼させていただきました。それまでのやり取りで信頼関係が築けていたし、仁平さんなら子供たちにもわかりやすく説明してくれると思いましてね。
柳染め 九寸名古屋帯
仁平:
柳はなかなか味わい深い植物で、根気強くやっていたら柳ならではのやわらかい色、たくましい色も染め出すことができて、新しい発見がたくさんありました。今やもとじさんでの作品制作では柳染めは欠かせない染料の一つですね。泉二:
この間ね、泰明小学校の学習発表会というのがあって、子供たちがこの一年で経験した一番の思い出として柳染め授業のことを発表したそうです。思い思いの「宇宙」を描いた柳染めの反物を廊下の天井に吊り上げて、集まった父兄の皆さんに見ていただきながら、子供たちが柳染めの授業を通して感じたことを自分たちの言葉で立派に発表していたそうです。このようなことは今回はじめてのことだったので、20年かけてここまで辿りついたんだなと、二代目の啓太も感動したと言っていました。仁平:
感慨深いですね。子供たちは、きっとこちらが思う以上にいろんなものを吸収していますね。襖に染めた春夏秋冬
写真左:夏と春(和染) 写真右:冬と秋(和織)
泉二:
2006年の和織・和染リニューアルオープンのときは、4枚の襖絵を染めていただきましたね。あれから11年、いまや銀座もとじの店舗を彩る景色のひとつになっています。「ITと納屋」をコンセプトに、店内のインテリアはすべて本物の自然素材にこだわって、襖の素材は手漉きの和紙、土佐の清帳紙です。仁平:
「春夏秋冬」というテーマで、それぞれの季節をイメージする色を染めさせていただきました。泉二:
テーマを伝えて、色とデザインはお任せします、と。投げたボールをきちんと理解して、表現して返してくれるのが仁平さんでしたから。草木染めでお願いしましたね。仁平:
「春」は花をイメージしてラック、「夏」は海をイメージして藍、「秋」は紅葉の色を矢車附子と茜で、「冬」は青墨ですね。同じ店舗空間にある大きな石(庵治石)や一枚板の木(栓の木)の存在感、素材感にどう調和するかを考えました。泉二:
見ていて心地が良いし、着物が美しく映えますね。この店舗を作る際に考えたのは、染織の匠が作る本物の作品が、より輝くような舞台を作ろうということです。木、石、紙もすべて全国を回って選びました。
墨染めした紙子の壁紙
仁平:
はい、草木染料は時を経て、色がより深く落ち着いていく、それが美しいんですよね。古い納屋をイメージした紙子の壁紙も染めを担当させていただきました。こちらは墨で染めています。泉二との出会いは飛び込み営業
泉二:
出会いはいつ頃でしたか? 仁平さんも私も若かったですよね。仁平:
18年ほど前ですね。銀座もとじさんは無名の作家でも「面白い作品なら受け入れてくれる」という噂を耳にして、飛び込みで持ち込みました。社長さんは日中は忙しいだろう、話を聞いていただくなら朝だ! と開店前に駆けつけました。泉二:
そうそう、反物を抱えてバイクで来てくれましたね。仁平:
「作品見てください! 」って、勢いにまかせて。一蹴されるかと思っていたら全て見てくださって「気に入った! 」とすぐに数反買ってくださったんですよ。泉二:
素材の生かし方、彩色が抜群。素材、色に対する特別な感性を感じましたよ。それと当時も今も私は、新しい作り手を探すことに貪欲です。優れた作り手がいて初めて、お客様に良い作品をお届けできるわけですから。仁平:
お客様の声に耳を傾けたものづくりを徹底されていますね。飛び込みでも受け入れていただきましたが、個々の作品に対しての要求はとても厳しかったです。泉二:
そうですね、選ぶのはお客様だから。若い作家さんが一番勉強になるのはね、作品を置いて、お客様の声にそっと耳を傾けて観察すること。良いものを作ったらやっぱり手に取っていただけるし、振り向いてもらえないときには必ず理由がある。その答えは自分で見つけなくちゃいけない。仁平:
人の目にさらされること、意見に耳を傾けることで自分を客観視でき成長できるんですね。泉二:
今年、新人作家に発表の場を提供する「ぎゃらりー泉」がスタートしました。目の肥えたお客様に作品を見ていただく、これほどの成長のチャンスはありません。 この「ぎゃらりー泉」の扉を開くことが、私の長年の夢でした。私もまだ若かった頃、良い腕を持ちながら作品発表の場がないために志半ばで道を諦める作り手が後を絶たなかった。私は悔しくて悔しくて、いつか自分の店を大きくできたら、若い作り手に光を当てて、才能を埋もれさせることのないように、染織の未来を引っ張っていってくれる人たちにチャンスを与えられるようになろうと思い続けてきたんです。 仁平さんのように、光る才能を持つ作家の成長を共に走りながら応援していきたいと思っていますよ。今回の作品展に込めた思い
泉二:
このたびの催事では、「古典的な作品から現代的な感覚の作品まで、仁平さんの魅力を余すところなく発表してほしい」と、大変なお願いをしています。料理をされていた仁平さんは、素材の良さを生かす「味付け」がとても上手ですよね。 「素材を活かしながら、独自の表現を作品に宿すこと」、引き算と絶妙な掛け算が抜群だと思いますが、今回も正にそのような作品を制作していただきましたね。仁平:
ありがとうございます。前回のテーマは更紗柄でしたが、今回は「今の仁平幸春」をすべて作品に込めて、かなり作風としては幅広い作品が完成しました。今回お預かりした生地もとても魅力的で、染めるには手強い部分もありましたが、素材感も存分に味わっていただける作品に仕上がったと思います。泉二:
これほどのこだわりの作品はどこの問屋さんを回ってもありませんよ。個性的に見えながら、仁平さんの帯は着物を引き立てて合わせやすい。仁平:
そこは意識しています。お手持ちの着物を活かす、ということが大事だと思っていて、僕の帯によって眠っている着物が目を覚ましたり、着物を着る機会が増えたらとても嬉しいです。泉二:
お客様にご覧いただくのが楽しみですね。今日はありがとうございました。 8月18日(金)から、よろしくお願いしますね!