第35回:<番外編>きものアドバイザー 江森正枝

~男のきもの 15周年記念~「銀座もとじ 男のきもの」を立ち上げた二人 泉二弘明X江森正枝(前・男のきもの店長/きものアドバイザー)

2002年9月10日、「銀座もとじ 男のきもの」は業界初の「仮縫いサービス」を掲げて、日本初の男性の着物専門店として、大海原へ漕ぎ出しました。店主・泉二の右腕となって活躍したのは、和裁の道から販売の道へ入り、店長として開店当初より男のきもの店を引っ張ってきた江森正枝。店主・泉二と共に歩んだ、侃々諤々、笑いあり涙ありの15年を振り返ります。

「お客様に支えられ育てていただきましたね」(泉二)
「貴重な経験をさせていただきました」(江森)

泉二:2002年にたった9坪の店から始まった「銀座もとじ 男のきもの」も今年で15周年。この15年でずいぶん変わりましたよね。

江森:男の着物はどんどん楽しくなってきました。今は作家物をはじめ、豊富な素材や色柄、広幅のものもたくさんありますし、15年前には考えられなかったことですよ。街でお洒落に着物を着こなす男性が増えましたね。


泉二:この間も男物を作ったことのない作家の先生が「角帯を作ってみたい」と、先生の方からおっしゃってくださって、お客様だけでなく作家のみなさんも楽しんでいます。お客様のあたたかい応援とご支持があってここまで来られました。江森さんも、15年一緒に走ってくれてありがとう。

江森:たくさんバトルもございましたね(笑)こちらこそ、そのときそのときは大変でしたけれど、今思えば本当に稀な経験をさせていただいたと感謝しております。

「癒し」から「お洒落」へ。男性が着物を着る理由が変化

江森:オープンは2002年でしたけれど、助走期間は5年くらいあったでしょうか。女性の着物店の片隅に男の着物コーナーを常設して、社長は早くから男性の着物にも着目していましたよね。

泉二:それまでは、男性が着物に何を求めていたかというと「和の癒し」という部分が大きかったと思います。しかし来店されたお客様とお話をしていると、くつろぎ着ではなくお洒落で格好よく見られる着物を求めていらっしゃる。着物がお洒落着・ファッションとして認められることで、より多くの方が着物を楽しむようになり市場も拡大するのではないかと考えたわけです。海外から帰ってきた方が、日本文化について知らず恥をかいたという話をされていてね。国際交流が進むほど着物は注目されるに違いないと当時から思っていました。

男のきものに力を入れ始めた頃
男のきものに力を入れ始めた頃

江森:開店前年、2001年に5日間限定で開催した男の着物フェアはすごかったですね。店を5日間「男性だけの館」にしたら、大反響!DMを手にした男性がこぞって来店されて、大変喜んでいただけました。

泉二:閉店時間を過ぎてもお客様が途切れなかった。男性はシャイな方が多いから、女性と一緒の店舗だと入りずらかったんだろうね。あの5日間で大きな手応えを感じて「これはいける!」と、独立した専門店を作ろうと話したら・・

江森:私は大反対しました(笑)

泉二:江森さんだけじゃないよ、スタッフはみんな大反対(笑)

江森:全く思いがけない事でした。男性の着物市場はまだまだ小さかったですし、男性の着物って当時は今のように色やデザインが豊富ではなかったでしょう。華やかで楽しい女性の着物に囲まれて仕事をしていたいというのが本音でした。しかも「仮縫い」をすると言われて、「ありえない」と。着物で「仮縫い」というのは前代未聞のことでしたから。

業界初「仮縫いサービス」でつくる究極のビスポーク

泉二:男のきもの専門店を作るなら、絶対に「仮縫い」をしたいと思っていました。10万円のスーツでも仮縫いがあるのに、着物は高価なものでも仮縫いがない。男性の着物は「対丈」だから、女性の着物より慎重に仕上がり寸法を調整していく必要がある。肩幅、肩の厚み、胴回り、人それぞれの体型にぴったりの仕立てにしたかった。揚げの縫い目がきちんと角帯に隠れ、衿先の出方もバランスよく着崩れもしにくいように、と。お洒落な方ほど、全体のシルエットやディテールの仕上りを気にされます。お洒落なお客様にご満足いただくために、仕立てのわかる販売員が必要だとずっと考えていました。そこで江森さんに・・


江森:白羽の矢が立ったわけですね(笑)もともと和裁士として独立したときに、着物を縫う仕事をいただけたらと思って銀座もとじを訪れたのが始まりでした。最初は仕立ての仕事を頂いていましたが、社長から「販売の仕事もしてみないか?」と言われて、経験はなかったですが勇気を出して店に出て接客して、2000年に開店した「和織」が軌道に乗ってきたところで、今度は「男のきもの」を頼むと言われて、どうしようと思いました。特に和裁の世界には「仮縫い」というものがありませんでしたから、すべてが手探りでやり方も一から考えて。社長も仕立屋さんを説得するのに一年もかかったそうですね。

泉二:そうです、口説き落とすのが大変でしたよ。大人の男性のオアシスにしたかったから、店づくりにもこだわりました。床は「伊達男」にちなんで、伊達藩の硯石を敷き詰め、松の一枚板でテーブルを設えました。商品についても、当時はお洒落なものが少なかったから、産地に通ってオリジナルで作ってもらって、広幅の反物も少しずつ作ってもらえるようになった。

江森:その頃、「LEON」「オブラ」「MensEX」など人気雑誌でも取り上げてくださって、「着物は究極のビスポークだね」というキャッチフレーズと一緒に、故・加藤和彦さんが誌面で紹介してくださったこともありましたね。

泉二:お洒落な方、影響力のある方が着物を着てくださるようになったんだよね。それによって、着物をファッションとして捉える気運が高まってきたように思う。

※ビスポーク・・・オーダーメイドスーツ等で、顧客がテーラーと「話をしながら」注文を受けていくこと。

夢のある店、お客様に寄り添う店でありたい

江森:2年前からはオリジナルコレクションもスタートして、春夏と秋冬の年二回、テーマ性を持たせた新作を発表しています。ずっとやりたいと思っていた季節ごとのコレクションを、二代目の啓太マネージャーが実現してくれました。着物って「夢」ですよね。ないと生きられないというものではないからこそ、夢のある店、行くたびにワクワクするような店をこれからも目指していきたいですね。


泉二:そうですね。そして常にお客様に寄り添って、期待に応えられる店でありたいですね。

江森:この15年の間に、男性向けの着物を扱う店も増えましたが・・

泉二:確かにライバルが増えたともいえますが、とてもいいことだと思っています。お客様にとっては選択肢が広がり、より商品を選んでいただく楽しみが増えた。また裾野が広がることで、業界全体が活性化して産地も元気になる。私たちは新しい視点と情熱をもって、より良いもの、より良いサービスを提供していかなければなりませんね。伝統は守るのと同時に、果敢に変えていくことも大切ですから。そして、たくさんの男性に和のお洒落を楽しんでほしい。

江森:着物を着ると確実に男ぶりが上がりますものね。着物は日本人を美しく見せるために発展してきた装いなのだとつくづく思います。

泉二:今も昔も、着物を着て帽子でも被っていくと、レストランでの扱われ方が違うと皆さん仰います。

江森:着物を纏うと、その方の隠れた魅力が表に現れますよね。着物には底知れない楽しさがあります。日本人に生まれたからには、その楽しさを味わわないのはもったいないですよ、とすべての男性に伝えたいです。

泉二:そう、もったいない。そして私はいつか「プラチナボーイでつくる究極のビスポーク」という世界を作ってみたいんだよね。糸からこだわった生地でつくる、世界に一枚の最高のお洒落着。来年は「西郷どん」にちなんだ大島紬の「西郷柄」にも注目しています。かつて奄美大島で集落ごとに競い合った最高の男柄・西郷柄を、現代の男性にお洒落に着こなしていただきたいですね。

江森:着こなしのヒントは、今回の本の中にもたくさん紹介させて頂きました。

泉二:一家に一冊!『着付けDVD付き はじめての「男のきもの」』でぜひ着こなしを研究して、男磨きをしていただきたい。そして2020年の東京オリンピックでは、ひとりでも多くの方と一緒に日本の民族衣装・着物を着て、世界の方をお迎えしたいですね。

江森:いいですね!これからも、まだまだ走り続けましょうね。



『男のきもの 15周年記念展「風」』
期 間 : 2017年11月3日(金)~12日(日)
場 所 : 銀座もとじ 男のきもの ⇒詳細はこちら



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