第30回:草木染織作家 山岸幸一さん

草木染織作家 山岸幸一さん 一口対談

『山岸幸一 天の恵みを受けて~寒染紅花~』
期 間 : 2011年2月24日(木)~27日(日)
場 所 : 銀座もとじ 「和織」「男のきもの」
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期 間 : 2011年2月17日(木)~20日(日)
場 所 : 銀座もとじ 「男のきもの 大阪店」⇒詳細はこちら


泉二:お久しぶりです。今日はまた大勢で押し掛けてすみません。いやいや山形は寒いですね。今冬は雪がさらに多いように思いますが。

山岸:ようこそお越しくださいました。寒かったでしょう。今年はよく降っていますよ。

山岸幸一さん
山岸幸一さん

泉二:入口の所にかまくらを作ってくださっていて、中にロウソクが入っていましたね。夜になったら綺麗でしょうね。

山岸:今晩いや早朝ですね。楽しみにしていてください。みなさんがお越しになるのに我が家ではなんのおもてなしもできないから、せめて雪国の雰囲気を味わっていただこうと家族みんなで作ってお待ちしていたので。

泉二:ありがとうございます。出張に来たスタッフがみな子供みたいに大喜びしていますよ。私達は「寒染め」の勉強に来たので、仕事場を見せていただけるだけで嬉しい限りです。その上に、このような素敵なお迎えを頂いて。ありがとうございます。これから染の準備ですよね

山岸:はい。寒いですけど皆さん覚悟してついてきて下さいね。

寒染紅花

泉二:山岸先生の紅花は冷し染めで行いますよね。

工房内にて染作業
工房内にて染作業

山岸:はい。「藍」は27度~30度、「紅花」は40度程度で染液を作って行きます。いずれも煮染めはしません。「冷し染め(冷染め)」は染液を40度以内に温めて最後に糸に吸収させますが、湿度が最も低い時期に染めると染まりが良く大変引き締まった光沢のある染糸になるので、毎年寒の入りから始めますね。私は植物や生き物が一番いいと思う時期に採取し、そして染めるのが自然の摂理に沿っていて一番いいと思うんですよね。

泉二:そうですね。素材を生かすのはおっしゃる通り適切な時期があるんですよね。私も先生の一途な染め方、物づくりの姿勢に魅かれてお願いしているので、この色、この風合い、この感触!好きですね。織上がった後、反物で頂いた時この巻いた芯の部分を見ると糸への染料の含み具合が分かるんですよね。反物を横から見ると芯全体がふっくらしていて、そして織物が軽い。糸がしっかり染料を吸っていてそれでいてふんわりしていて、その良さが凄く分かるんです。

山岸幸一作
山岸幸一作

山岸:ありがとうございます。素材を大切にする泉二さんだから作りがいがありますよ。泉二さんのお店に行かせていただくと、必ずお客様が私の作った織物をお召しになって来てくださるじゃないですか。それを見ると凄く幸せになるんですよ。「あ!10年前に織った着物だ」と作っていた当時を思い出し、今の状態から「よしよし、素直になって輝いているな」「大事に着てもらっているな」と分かるんですね。私は一反一反お嫁に出す気でいますから、成長した我が子を見ているような気がして。先日もお伺いした折に10年前に織った着物をお召しになっていたお客様がいらしていて、思わずお願いして着物姿のお写真を撮らせていただきました。染めた植物の色がしっとり馴染んで来ていてその方に寄り添っていて良いなと思いましたよ。自分の力がどうのこうのじゃないんですよ。自然の力なんですから、本当に感動しますね。

泉二:先生は蚕を飼い、植物を育て、糸を採り、染め織ると全行程をご自身でなさるからすべての状態をしっかりつかんでいらっしゃる。

山岸:植物が育ってきた状況を知り、蚕の育成過程を知ってそのものの性質を理解しないと最良の状態で扱う事はできませんからね。
さあ、準備が整ってきました。これから紅餅をお湯にくぐらせて紅の色素を抽出して行きます。3時間毎に作業を繰り返して明日の朝4時から染めますので、皆さんは一度ホテルへ帰って休まれてください。午前3時半ぐらいにお待ちしています。

寒染を終えて

泉二:いやいやいや、本当にものすごく感動しました。私はすでに何度も見せて頂いていますがやっぱり毎回感動しますね。精神が洗われるというか気持ちが清らかになります。

雪の中で寒染をする
雪の中で寒染をする

山岸:私も毎回、染を始めるときは本当に神聖な気持ちになりますね。特に今晩のように冷え込んで雪に包まれた月夜になると空気が澄んで綺麗になって、その上積雪ですっぽり覆われているから静寂そのものでしょ。水音さえも清らかな感じがして。自分の精神が統一されて研ぎ澄まされて行くんですよ。一気に染めにのめり込んでいきますね。水と空気と紅の染料と糸の息遣いが聞こえてくるんです。

泉二:私達も見ていて集中のあまり息が詰まりました。人の呼吸音さえ聞こえて来るので、普段気にならないデジカメのシャッター音がとっても大きく聞こえて。今回の染めの最中は「店舗メンバーの勉強の為に写真を撮って帰りたい。でもなあ。」と気になって気になって、シャッター切るのも迷いました(笑)。

山岸:そうだったんですか。そこまで気にされなくても大丈夫ですよ。

泉二:先生が糸を繰る音、水の音、それと先生の息遣いが聞こえているだけの世界でしたね。

山岸幸一作
山岸幸一作

山岸:そうですね。集中しますよね。そうじゃないとダメなんです。よく皆さん「失敗は成功の元」って言いますけど、私にとって「失敗はイコールすべてを無にしてしまうもの。ダメにしてしまうもの」なんですね。今まで生きて来た植物も蚕もすべて無駄にしてしまう。だから絶対に失敗は許されない。そう思って仕事しています。

泉二:先生が染め工程を進めながら必ずひとつの作業が終わる度に、アシスタントの息子さんや娘さんに「手を洗ったか」と何度も確認していらっしゃるのを耳にして、ひとつひとつの工程をものすごく大事にしていらっしゃる事を改めて知りました。私達も店舗に立つときは、日々同じ気持ちで同じ様にしなければと思いますね。

山岸:今回の寒染から、我が家も息子がチャレンジを始めたので、習慣づけるためにも余計に言い続けていますね。娘は高校時代から「自分は染と織をする」と言い続け、高校卒業後は美大に進んで染織の勉強をしてきました。高校時代から手伝いもしていたので結構基礎が身に着いていますね。ただ染めはやはり男の仕事だと思います。20綛(4束)をこの木の棒に掛けて染めていくと、水分を吸った糸は思っている以上にずっしり重くなる。それを何度も浸けたり上げたり、空気を入れるために両腕に掛けて繰ったり、さばいたりするので、本当にこの仕事は体力が必要な重労働です。娘は小学校からスキーのノルディックもやっていましたし、5キロ10キロの遠泳でも何度も入賞するほど体力がありますから、身体は細くても体力も力もある。だからなんとか染をやりますけど、気をつけないと腰を痛めますからね。

山岸幸一作
山岸幸一作

泉二:お恥ずかしい話で今回初めて息子の啓太が紅花染めの染め作業に1回だけチャレンジさせていただきましたけれど、それまで説明を聞いて見ていたはずなのに、ものすごく緊張したらしく「頭が真っ白になって実際は手も足も出なかった」と言っていました。それと「濡れた糸がこんなに重いものだとは思わなかった」とビックリしていました。彼も学生時代はずっとサッカーをしていてスポーツも大好きだったので細身でもそれなりの筋力や脚力はありますが、それでも「腰がやられるかと思った」と言っていましたから。

山岸:重労働なんですよ。それに寒染の時は準備から始まって染液を作って、夜中から早朝に染めて、朝、川で洗って干してで、丸二日は徹夜になりますからね。寝ないで集中力を欠くことなく重労働もする仕事なので、終わったら精も根も尽き果てるんです。 それに染めの時は付随する仕事もしますのでワンクールで10日間はかかるんですね。そして、2日休んでまた10日間続ける。この10日間の内2日間は徹夜という状況です。結果、ワンシーズンで出来る回数も限られてきますね。

泉二:分かります。そうでしょうね。

山岸:そのくらいでやらないとお蚕さんの命と植物の命をもらってしている仕事なので申し訳ないんですよ。

泉二:「清流水で洗う」は実際、雪の中、透き通った水に紅に染まった糸がまるで生きているかのように泳いで見えて、どんどんどんどん輝いて行くのは感動的でした。 水は本当に冷たかったですね。冷たいというより痛いという表現が合っていました。

山岸:そうですね。すぐに指先の感覚は無くなってきます。

泉二:そこに娘さんも息子さんも本当に薄着でためらいなく水に手を入れて糸を洗うのを見て根性が違うと本当に思いました。

山岸幸一作
山岸幸一作

山岸:泉二さんも私も次の世代を育てる時期に来ていますよね。私も普段は絶対に染めは他の人に手を出させません。最後に集中して取り組む大切な染ですから。それに「失敗はゆるされない」と思って取り組む事が私のポリシーだし、植物に感謝する事だからです。でも今回は、泉二さんも跡継ぎの啓太さんと一緒にいらっしゃると聞いていたので「特別にちょっとだけ、本当に一回だけですがやらせてあげたい」と思いました。 一度は体験してもらった方が本当の染とは何か、とか私達職人が大切にしている事や想いが伝わると思ったんです。 私の子は後を継ぐつもりで今やり始めたんですから、徹底して取り組んでもらわないとね。

泉二:ありがとうございました。私もした事のない「寒染」を体験させていただいて感謝でいっぱいです。お返しと言ってはなんですが、次回の展示会の折にはぜひご子息さんとお嬢さんにもわれわれの店舗にお越しいただいて、お客様の生の声を聞いて頂きたいです。

プラチナボーイと向き合って

泉二:5年前と4年前にお願いしたプラチナボーイの生繭から今回本当に素晴らしい作品を作っていただいてありがとうございました。

山岸幸一作
山岸幸一作

山岸:私こそ貴重な繭を使わせていただいてありがとうございました。扱えて嬉しかったです。普段は「新あけぼの」を使いますが、今回プラチナボーイを扱ってこの糸の良さがさらに実感できました。糸が細くてそれでいてしっかりしているんですね。一方向に糸の毛羽が向いているので糸自体が強くて印象もすっきりしている。「一本筋が通っている」と言う印象でした。毛羽が同じ方向に向いているから光の反射も一方向へ強く放たれる。上品に輝くから「舞台上のタカラジェンヌ」だと思いましたね。 糸の感触は「真綿」と「生糸」の間くらいと言う感じでしょうか。プラチナボーイの白が余りに綺麗で今回は敢えて染めないそのままの白を使った織物もあります。

泉二:いただいた時感動しました。それに一反が本当に軽いんですよね。

山岸:そうですね。大体500グラムから680グラムの間でしょうか。でも糸密度は濃いですよ。

泉二:また是非次回もチャレンジしていただけたら嬉しいです。5年待ちますので。

山岸:そうですね。チャンスがあればまた!

今回は男ものも

泉二:今回の展示会では「角帯」を作っていただいているんですよね。

山岸:はい。男性からのリクエストがあるという嬉しいお話しを聞いていたので、今回角帯にチャレンジしてみました。植物で染めていますのでパンチの利いた色は出せませんが、寒色系の優しい色合いで作っています。

泉二:綺麗ですよね。先生の織物は織が無理なくしっかりしているので女性の方々から八寸帯は「締めやすい」「気持ちがいい」との声が上がっていて。その感想を聞いている男性たちから「是非、男性物が欲しい」と言うご要望があったんですよ。角帯は「待ってました!」と大向こうが掛かりそうな気がします。 今回は更に、男性もお召しになれるように反物の幅も広く織ってくださっているものがありますよね。

山岸:はい。色合い的に男性にも向きそうだなと思った反物は一尺一寸を心がけて織りました。銀座もとじさんのお客様は皆さんお洒落で良いものを沢山見ている方が多いので、その方たちに満足していただけるものが作れたらと思っています。2月の末は是非宜しくお願いします。

泉二:こちらこそ宜しくお願いします。
展示会中の後半2日間、日程で言うと2/26土曜日が11:00~19:00と2/27日曜日は10時にお越しいただいて、ぎゃらりートークで10:00~11:00、その後店舗に11:00~17:00まで居ていただけるという事で、またその時にお目に掛れるのを楽しみにしています。

[対談日:2011/01 筆:荒井博子]

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