七世 中村 芝雀 さん / 泉二の一口対談


第6回:七世 中村 芝雀 さん (歌舞伎俳優)

今回のお客様は、歌舞伎の舞台で女形を務め、時に可憐なお姫様、時には世話女房、ある時は舞姫と7変化してみせる中村芝雀氏です。 舞台ではあくまでその役を探求し、演じ込め、見る者を魅了し続けます。育ちの良さがにじみ出る品の良い舞台に魅了されるファンも多く、これから益々期待が掛かります。 一方舞台を降りてオフに戻ると、とっても気さくで明るく話し好きな方。スターでありながら、それを一分も見せず人一倍気遣いの行き届いた方です。

<七世 中村 芝雀氏 プロフィール>

「真女形」として現在は歌舞伎座を中心に活躍しています。 昭和30年、四世 中村雀右衛門(人間国宝・芸術院会員)を父に、七世 幸四郎の娘を母に持ち2人兄弟の次男として生まれました。 5歳のときから本格的に「日本舞踊」「長唄」「清元」「鳴り物」「茶道」の稽古を開始。 翌年の昭和36年2月には歌舞伎座の舞台に立ち「一口剣」の村の子、廣松で大谷廣松を名乗り初舞台を務めました。その後、父の「雀右衛門」襲名に伴い、昭和39年9月には歌舞伎座「妹背山婦女庭訓」のおひろで「七世 中村芝雀」を襲名しました。

本物の中にこそ本物の味がある


泉二: 今日はお忙しい中ありがとうございます。芝雀さんとはお仕事の関係者とのつながりでご縁を持たせていただいてそれ以来のお付き合いをお願いしておりますが、いつもいつも色々と気に掛けていただいて本当に感謝しています。

中村: いえいえ、こちらこそ。折角頂戴したご縁なので、泉二さんのお役に立つことでしたら何なりとさせていただきたいと思っています。

泉二:  いやいや恐縮です。私の出版記念パーティの折にも歌舞伎座の公演中でお忙しかったのにもかかわらず舞台の合間に明治記念館までお越しいただいて、お祝いのお花まで頂戴して、それだけでもう十二分に恐縮していたんですよ。それなのにお父様の人間国宝 中村雀右衛門さんにまでお越しいただいて、温かいお言葉まで頂戴して。社員はもとよりお客様がみなビックリしていました。

中村: いえいえ。父は私がお世話になっているからって言って出て行ったんですよ。だから気にしないで下さい。

泉二: 新店舗オープンの折にも色々とお気遣いいただいて本当に申し訳ありません。

中村: いえいえ、もうそのお話はいいですよ(笑)。それより泉二さんはどんどんどんどん新しい世界を作っていかれますね。 最初に「和織」と言うお店を拝見させていただいたとき、凄く刺激を受けたんですね。日本古来の素晴らしい品々と共に今の息吹が感じられる店作りで。凄い感性があるんだな~って感心しました。そしたら次に4丁目に「納屋とIT」と言うテーマでお店を作られたじゃないですか。これまた凄い凝った店作りでもうびっくりです。

泉二: いやいや。私自身「和織」店を作ったときに転機が有ったんですよ。それまでは普通の呉服屋で良いと思っていたんですが、「和織」を作ってみて気が付いたんですね。扱う商品に凝るだけじゃなくてそれを容れる器にも凝らなくちゃ本物になれないってね。

中村: そうですか。分かりますね。その意味。私も歌舞伎役者として生きていますが、どんなに綺麗な衣装を着ても芸が付いていかなければ何にも成らないんですよ。器と中味が一体となったときに本当の意味の味が出てくるし、人を感動させられる。

泉二:そうですね。本物に囲まれた中に本物が存在するからこそ、その価値が出てくる。 歌舞伎界はそういう意味では沢山の本物の先輩が居てその中で小さい頃から磨かれていくから本当に本物になるんですよね。伝統に育てられるって言うのかな。

中村: そういうのはありますね。5歳くらいから芸事をしっかり身に着けていきますが、それまでも家の中に芸事に匹敵する事がごろごろ転がっていますからね。自然と身についていく機会がありますよ。でも歌舞伎の世界では60歳の還暦を過ぎた頃から「本物になった」って言われるんですよ。

泉二: ええ!そうなんですか!還暦を過ぎてからねえ。大変な世界ですね。

一期一会を大切に

泉二: 歌舞伎座の舞台は月に何日くらいあるんですか。

中村: 平均して25日間ですね。

泉二: 25日間同じコンディションに保つって言うのは大変でしょうね。

中村: そうですね。でもお客様は毎日代わりますからそれこそ一期一会なんですよ。 「昨日よりも今日。今日よりも明日。」と言う気持ちで舞台に向っていかないと上達しませんからね。ま、歌舞伎の舞台が好きだからこそ出来ることだとは思います。 私達は舞台と言う空間を通してお客様と接していますが、泉二さんの場合は毎日お客様と直に接しているわけでしょう。その辺は泉二さんの方が気持ちの持って行き方が大変なんじゃないですか。

泉二: いやあ、そうでもないですね。私は商売が好きですし、着物が好きなんですよ。だから体調が多少悪かろうがなんだろうがお客様を目の前にしたらシャキッとなりますし、頑張っちゃうんですね。やっぱり今、芝雀さんが仰った「一期一会」に通じると思うんですが、私どもの店に遠くからいらして下さるまでに「お客様は一体何軒の呉服屋さんを通過してくるのか」って思うんですよ。一軒や二軒じゃないんですね。そう思ったらやっぱりお客様には感謝の気持ちが出る。『うちの店を選んで来て下さってありがとう』という気持ちが・・・それが当たり前だと思うんですね。だからいつも社員には『この感謝の気持ちを忘れるな!!』ってしつこいくらい言い聞かせていますよ。

中村: 大切な事ですよね、その気持ちは。 私自身舞台に立っていていつも思うのは、何も演じていない演技をしていないときにこそ、人一倍気を抜いたらいけないぞって思うんですよ。何もしないで動かないで居てお客様から見てその役に見えたときが本物だと思うんです。そういう役者で居たいし、成りたいですね。お客様にいつも良い舞台を見せられる役者でいたいですね。

泉二: 私がこんなこと言うのは僭越ですが、芝雀さんの舞台は本当に心がありますよね。お人柄が出ているって言うのかなあ。

中村: :いやいや。そんな風に言われるとちょっと照れてしまいます。 でも私自身「心」は大切にしたいといつも思っているんですね。心が付いていかないと演じられないですし、本当に役の中に入って行く事は出来ない。歌舞伎は様式美とは言いますが、やっぱりその根底には「心」が無いと駄目ですからね。歌舞伎の世界ではこれを『地の芸』って言うんですよ。

泉二: そうですか、私も「心」は大切にしていきたいです。 それと「人と人の出会い」もね、大切にしたいです。私がこの世界でやってこれたのも人との出会いがあったからなんですよ。あの人と出会ったからこれが出来た。あの人に教えて貰ったからこれが出来た。って言うのが沢山ある。私も一期一会って言うのを大事にしていきたいんですね。

中村: 一緒ですね。どの世界も人に支えられているんですよね。

泉二: 本当にそうですね。今日はお忙しい中、お時間頂戴しまして本当にありがとうございました。これからも是非宜しくお願いします。

※ 中村芝雀氏公式ホームページはこちらから

[ 対談日:2004/06/30 筆:荒井博子]